10月

10月

こないであろう遠い将来への

私と息子との想定会話・・・

「都会ってカッコイイねおとうさん!佐々木広大や桜森啓子、みんなみんなステージで踊り回るの!ぼくもあそこで踊ってみたいなぁ・・・浜っ子って響き、かっこいい・・・『湘南』ナンバーの車でベイサイドを駆けぬけるの・・・」

「そうだな」

「・・・おとうさんって前は横浜に住んでたんでしょ。おかあさんに聞いたよ。どうしてそのまま横浜で暮らさなかったの。そうしたら、今ごろ僕は浜っ子だったのに・・・」

「ははははっ・・・」

「誰かにいじめられたの?僕もクラスに嫌な子が一人いるんだ。僕も今のクラスから早く逃げたいよ」

「おとうさんは都会から逃げてきたんじゃないよ。おとうさんは勝ち残ったから今、ここにいるんだ」

「?・・・」

「田舎から都会に出てそのままそこに残った多くの人は、都会を勝ち抜いたからそこにいるというわけでもない。そこから出られなくなってしまった人もたくさんいるんだ」

「どういうこと?」

「まだ難しいかな?」

「ううん、そんなことない!僕、もうすぐ中学だもん!」

「社会に出るとね・・・たくさんの人からたくさんの頼まれごとをされるんだよ。たくさんの約束・・・皆がたくさんの約束をして、そしてたくさんの約束をされる。楽しいことも嫌なことも・・・」

「うん・・・」

「約束したことだから守らなきゃいけない。みんな一生懸命 約束を果たすんだけど、次から次に約束が来て増えていくんだ。楽しい約束もあるから初めはがんばるんだけど約束は増えて行くばかり・・・そのうち嫌な約束ばかりが残ってしまう」

「・・・」

「都会に残っている人達は、そういう約束をこなせずにいるから、都会から出られなくなるんだ。・・・俺は約束をすべて果たした。だからここにいるんだ。」

「ほんと~?☆」

「ほんとうだよ  ・・・すこしすっぽかしたけど☆」

「ずるーい☆」

「ふふふっ でも、本当に帰りたかったのに帰れなくなった人がたくさんいるんだよ。都会には」

「ふーん・・・」

「おとうさんは負けなかった、そしてここにいるんだ。勝てなかったのかもしれないが、負けはしなかった。」

「僕もクラスから出れば、いじめっこに負けなかったことになるの?」

「それは少し違うな。これはよくお聞き。おとうさんが作った格言だ。

 『ここの外は、他のものの中』ということだ」

「?・・・どういうこと?」

「今いるところが嫌で逃げ出しても、逃げ出した先はいつも別のものの中なんだ。だから、結局、嫌なことがその中にもある」

「う~ん・・・」

「おとうさんも今いるところで、約束がなくなったわけではないんだ。でも自分が望んだ未来への楽しい約束だ」

「・・・おかあさんが、夕御飯だって」

「ありゃ、そか☆」

(1996/10頃初出)